[テキスト]
アーリア人を治めていたのは、ヴィクラマディティヤ王(Vikramaditya)の孫サリヴァハナ王(Salivahana)だった。王は難敵のサカ人(Saka)のほか、チナ人(Cina)やタイッティリ(Taittiri)から来た人々、また自在に変身できるバフリカ人(Bahlika)などを制圧した。
*チナ中国人、タイッティリ人はパルティア人、バフリカ人はバクトリア人か。
王はまたローマ人や邪悪で人を騙すクラ人(Khura)の子孫を打ち破った。王は彼らを厳しく罰し、その財宝を没収した。
サリヴァハナ王はこうしてムレッチャ人(Mlecchas 非ヒンドゥー教徒)とアーリア人の国境を画定した。シンド国(Sindusthan)はこのようにもっとも偉大なる国として知られるようになった。王はシンド川から向こうへムレッチャを追い払った。
かつてサカ人を統一した者(王)はヒマトゥンガ(ヒマラヤ)へ行き、フーナの国の中央で力強い王は山上に住む吉兆を示す男と会った。男は金色の輝きを放ち、白い衣をまとっていた。
*フーナは5世紀前半にインド・ガンダーラに侵入してきたエフタル(白フン)のこと。ただしここでは西チベットのカイラス周辺の地域を指している。もし1世紀のことなら、西チベットにはすでにシャンシュン国があったはずだ。加筆説を取るならば、12世紀初頭に西チベットに侵入したカルルク人(テュルク系)が投影されているかもしれない。
王はたずねた。
「あなたはどなたでしょうか」
「私はイシャ・プトラ、神の子である。処女から生まれた者である」
「私はムレッチャの宗教を説く者である。私は絶対的真実しか語らない」
王はさらに問いただした。
「その宗教の原理とは何ですか。あなたの考えを教えてください」
サリヴァハナ王の問いにたいしてイシャ・プトラは言った。
「王よ、真実の崩壊が始まったので、マシハ、つまり預言者である私がこの規則も規定もない堕落した人々の国にやってきたのです。この国に広がった野蛮な非宗教的な状態を憂えて、私は預言者としての役割を果たすことにしたのです」
「王よ、聞いてください。ムレッチャのあいだに私はどんな宗教原理を確立したのでしょうか。生きる者は善きものに、あるいは悪しき穢れに服従しています。心は正しい行為や祈祷によって浄化されるのです。聖なる名を唱えることによって最大の清浄さを得ることができるのです。不動の太陽があらゆる方角の生きとし生けるものに恵みを与えるように、確固として動かぬ太陽の国の神は、生きとし生けるものに恵みを施すでしょう。おお、マヌの末裔よ、真実の言葉を述べよう。このように精神の調和と瞑想によって、人は不動の神を崇めるべきなのです」
「おお地上の守護者よ、至上神の永遠に純粋にして誉れある姿を取って、私はムレッチャの信仰を通して原理を説いた。このようにして私はイシャ・マシハ(救世主イエス)と呼ばれるようになったのです」
これらの言葉を聞くとともに、悪しき心をもった者たちに崇拝されるこの人物に敬意を表しながら、王はこのおぞましいムレッチャの国に滞在するようつつましくお願いした。
イエスが国を去ったあと、サリヴァハナ王はアシュヴァメーダ・ヤジュニャ(asvamedha yajna 馬の犠牲祭)の儀礼をおこない、60年間統治した。そして天国へ昇った。以上が、国王がスワルガ・ロカ(Svarga loka 天界の一つ)に行ったときに起きたことだった。
このようにしてチャトゥルユガ・カンダ、あるいはすばらしいバヴィシュヤ・マハー・プラーナのプラティサルガ・パルヴァのカリユガの物語である「サリヴァハナの御代」と銘打たれた第2章は終わる。